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【蝉の声が止んだら】短編小説

time 2025/07/28

【蝉の声が止んだら】短編小説

7月の大阪は、鉄板の上で焼かれるような暑さだった。

守口市の古びた商店街、昼下がりにさびたシャッターが並び、蝉の鳴き声があたりを圧倒していた。あの声は不思議だ——騒がしくもあり、懐かしくもある。そこに住む高校生の遥(はるか)は、夏休みの初日を迎えていた。

彼女は図書館へ向かっていた。冷房の効いた静かな空間で、本に囲まれて過ごすことが、彼女なりの真夏の逃避だった。

図書館の入口には、風変わりな少年が立っていた。彼の名前は陽太(ようた)。真っ白なシャツに麦わら帽子、どこか昭和の映画から抜け出してきたような雰囲気だった。

「蝉がうるさいでしょ。でも、あれが止んだら夏が終わるっていうよ」

そう言って陽太は微笑んだ。

遥はその言葉にひっかかりながらも、彼と少しずつ話すようになる。彼は街の空き地で育てているひまわりの話をし、風鈴の音が好きだと語った。遥は日々、彼の言葉にゆっくりと心を開いていった。

やがて8月になり、陽太の様子が変わり始める。約束した日に現れず、どこか遠くを見つめて話すようになった。

「この夏だけの、ほんの短い物語なんだよ。だから、忘れないでね」

彼の言葉は、まるで別れを予感しているかのようだった。

8月の終わり、図書館の前で蝉の声がふっと消えた。

遥が彼を探して商店街を歩いていると、風鈴の揺れる音が聞こえた。そして空き地に行くと、ひまわりだけがまっすぐに空を見上げていた。陽太の姿は、そこにはなかった。

彼女は後に、商店街の昔の写真展で一枚のモノクロ写真を見つけた。麦わら帽子を被った少年が、風鈴を手に笑っていた。

それは、30年前に事故で亡くなった少年の写真だった。

遥は思い出す。あの言葉——「蝉が止んだら夏が終わる」。

今も、風鈴の音が鳴るたび、彼の声が心に響いている。

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