2025/07/22
病院のベッドに寝ている美優（みゆ）は、青空を見上げながら心の中で問い続けていた。「これが私に与えられた最後の日々なの？」 彼女の胸元には薄い毛布がかけられ、その下で小さな体は癌の進行によって弱っていっていた。
陽介（ようすけ）は初めて彼女に会ったのは、病院のロビーでのことだった。何気なく目に入ったその笑顔は、彼にとって特別な輝きを持っていた。彼女は運命と向き合いながらも、笑顔を失わないその強さに惹かれていった。
二人の交流が始まり、陽介は美優の病状について知ることになる。その事実に心が揺さぶられながらも、彼は彼女を支える覚悟を決めた。毎日のように訪れる病室は、笑顔と涙でいっぱいだった。二人で共有する時間が、彼女の人生の中で最も豊かで愛に満ちたものになるように。
時間が経つにつれ、彼女は弱っていき、ついに最後の日が訪れる。陽介は彼女の手を握りしめ、青空に浮かぶ雲を一緒に見上げた。「君のことは一生忘れないよ」と彼は囁いた。
病室の窓から差し込む夕陽が、静かに沈んでいく。美優の呼吸は穏やかだが、どこか儚げ。陽介はその手をしっかりと握りながら、自分の無力さを痛感していた。彼女の体温が伝わるたびに、彼女の存在がどれだけ大切かを痛感する。
「陽介くん…ありがとう。」美優が静かに口を開いた。声はかすれていたが、その瞳には感謝と愛情が溢れていた。
「何言ってるんだよ、美優。僕のほうこそ、君と出会えて本当に幸せだよ。」陽介の声は震えていた。涙をこらえるのに精一杯だった。
彼女は微笑み、ゆっくりと瞼を閉じる。「あの青空の向こうで、また会おうね…」
その言葉を最後に、美優は永遠の眠りについた。陽介はその小さな手を離さず、ただ静かに涙を流し続けた。
数日後、陽介は病院の庭に立っていた。彼が毎日美優と一緒に眺めた青空は、今日も澄んでいて美しかった。彼はポケットから小さな手紙を取り出す。それは美優が残してくれた最後の言葉だった。
「陽介くん。ありがとう。あなたと過ごした時間は、私の宝物です。どうか、私がいなくても前を向いて生きてください。」
陽介はその手紙を胸に抱きしめ、深く息を吸い込んだ。そして、青空を見上げて誓った。「絶対に君のために生きるよ、美優。僕は前を向いて歩いていく。」
それから数年の時が流れ、陽介は社会に出て仕事に追われる日々を送っていた。けれども、彼の心の中にはいつも美優の笑顔があった。それは彼の原動力であり、彼を支える光でもあった。
ある日、陽介は公園のベンチに座りながら、手のひらに小さなスケッチブックを広げた。美優と過ごした日々を描くことで、彼は悲しみを癒しながら未来を見つめていた。「君がいたから僕はここにいるんだ」と、空を見上げながら彼は呟いた。
その日の夕方、突然の雨が降り始めた。陽介は雨宿りをしようと急ぎ足で歩いていると、ひとりの若い女性が傘を差し出してきた。「これを使ってください」と彼女は微笑みながら言った。その笑顔がどこか美優を思い起こさせ、陽介の胸に暖かいものが広がった。
彼女の名前は莉奈（りな）。偶然の出会いから始まった彼らの交流は次第に深まり、陽介は少しずつ自分の悲しみから解放されていった。美優の存在が今も彼の心の中に強く生きていることを伝えたとき、莉奈はその物語に涙を流した。「あなたの愛は本当に美しいですね」と彼女は静かに言った。
青空はその日も晴れ渡り、陽介は少しだけ未来に希望を抱くことができた。美優との思い出を胸に、彼は新しい一歩を踏み出した。
