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短編小説、ゲーム攻略

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【閉ざされた晩餐会】短編小説

time 2025/07/21

【閉ざされた晩餐会】短編小説

舞台は、雪深い長野の山間にひっそりと建つ洋館「七曜邸」。

著名な画家・芦屋康晴(あしや やすはる)が主催する晩餐会に、旧知の友人や関係者8名が招かれた。芦屋の最後の作品を披露する「遺作展」として——彼は、自分が余命数ヶ月であることを公表していた。

雪は夜更けに激しくなり、邸宅の外界への道は完全に遮断されていた。

晩餐が終わる頃、事件は起きた。

芦屋康晴が、自室で死体となって発見されたのだ。

首には絞殺の痕。だが、驚くべきことに、彼の部屋は完全な「密室」だった。

• 内側から鍵がかかっていた
• 部屋の窓は厚い雪に覆われて開閉不能
• 中には芦屋の死体のみ。凶器は見つからず

警察が現場に到着できるまでに時間がかかることを受け、邸宅に残された8人は、それぞれに疑惑と恐怖を抱えながら、洋館に閉じ込められることとなった。

だが、この事件は単なる殺人ではなかった。——それぞれが芦屋に抱えていた「秘密」、それが少しずつ明るみに出ていく。

そして、翌朝。新たな死体が見つかる。

密室の中で、再び——。

第二章:沈黙の肖像

朝の七曜邸は静まり返っていた。窓の外では雪が舞い、邸内は寒さとは違う空気の張り詰めた緊張に包まれていた。

芦屋の死から一夜。再び密室で人が殺されていた。

犠牲者は、芦屋の元助手・真鍋志保。彼女の部屋もまた、内側から施錠され、窓は開けられない状態だった。

しかも、死体の横には奇妙なものが置かれていた——芦屋が描いた遺作の一部が切り取られたキャンバス。

「遺作展の作品が、なぜ志保の部屋に?」

館に残された人々に疑念の目が向けられる。芦屋に招かれた8人は、それぞれ画家との過去を抱えていた。

• 外崎剛士:芦屋の最大のライバルであり、過去に盗作疑惑をかけられた男
• 藤堂美咲:芦屋の元恋人で、志保とは親しい間柄だった
• 芹沢駿:美術館のキュレーター。遺作展の管理を任されていた
• 黒崎理央:芦屋の秘書。無口だが、芦屋の全作品を管理していた
• 他3名は美術業界とは別の立場から招待されたが、動機が読めなかった

そして、警察の到着が遅れるなか、一人の女性が中心人物となる。

元刑事であり、現在は民間の調査員——城ヶ崎 瑠璃(じょうがさき るり)。招待客の一人だったが、事件の気配を察知して調査を始めていた。

彼女は最初の殺人現場の構造と、志保の部屋に残された「絵」に着目した。

「この絵……一枚の遺作ではない。芦屋は、何かを“分割”していた」

そう、芦屋が描いていた最後の作品は、**七枚に切り分けられた“連作”**だったのだ。

そして、それぞれの絵を保持していたのが、晩餐会に集まった客人たち。

「絵を集めることで、真実に近づく。これは——“遺言”を巡るゲーム」

瑠璃は絵の断片と、それを持つ人々の証言をもとに、事件の核心へと迫っていく。

だが、真実は決して単純ではなかった。第三の死が、再び“密室”の中で見つかる。

そしてその死体のそばには、また新たな「絵の断片」が…

第三章:断片と沈黙

その朝、城ヶ崎瑠璃は、広間の長テーブルに絵の断片を並べていた。三枚。芦屋康晴の遺作の一部——それぞれの死体の傍らに残されていた“遺言”のようなもの。

「絵の断片が揃うたびに、次の死が起きている…これは偶然ではない」

彼女は低くつぶやき、周囲を見渡す。残されたのは五人。だが、誰もが黙したまま、目を合わせようとしなかった。

第三の犠牲者は、藤堂美咲。芦屋の元恋人だった彼女は、晩餐会の夜に不可解な言葉を口にしていた。

「康晴は、私たちの過去を“絵”に変えて告発したのよ」

その言葉が現実になるまで、誰もが気づこうとしなかった。

美咲の部屋の密室は、まるで“展示室”のようだった。床には赤い絵の具が撒かれ、その中央に、彼女の遺体。そして壁には、断片の絵を模した奇妙な模写。まるで美咲自身が模倣したかのような…。

「これは“模倣犯”の匂いがする」

瑠璃は確信を持ち始める。真犯人は、芦屋の意図をなぞり、独自の“演出”を加えて殺人を繰り返している。

芦屋康晴の遺作のテーマは、“告発と赦し”。彼の人生の罪と、他者の罪。それを暴くために絵が存在した。

「そして、犯人はその絵を通じて、自分の存在を示そうとしている」

瑠璃は、絵の裏に隠されたメッセージを探し始める。

—そこには、指先ほどの文字が潜んでいた。

“赦されざる者へ”

その言葉は、誰に向けられたものなのか。芦屋か、犯人か、それとも死者たちか。

そして、残された絵の断片はあと四枚。

次の犠牲を防げなければ、すべてが終わる。

その瞬間——停電が起こる。

七曜邸の灯りがすべて消え、館内は闇に包まれた。廊下の先で、誰かの叫び声。

「誰か…絵を持って逃げた!」

静寂が、また一つ崩れた。

第四章:闇に潜む絵

停電は、七曜邸の空気を一変させた。館内の照明はすべて落ち、闇のなかに微かな足音、誰かの息遣い、そして軋む床の音が響く。

城ヶ崎瑠璃は懐中電灯を手に、即座に動いた。まずは広間へ戻る——だが、絵の断片はすでに消えていた。

「盗まれた…いや、“移された”んだ」

誰がそれを持ち去ったのか。なぜこの瞬間に?

そして廊下の奥、物置部屋の前で、外崎剛士が立ち尽くしていた。顔は蒼白。彼の足元には——**血に濡れた“第四の絵”**が落ちていた。

部屋の中で見つかった死体は、芹沢駿。彼の胸には、芦屋が描いた「青い風景画」の断片が突き刺さっていた。

瑠璃は、ようやく気づく。絵の断片はただの「鍵」だった。——犯人は、芦屋の絵を使って“自分の罪”を洗い出そうとしている。

「この事件は、罪への復讐……そして“赦し”の構造だ」

彼女は芦屋康晴の過去を洗い始める。

そこには、驚くべき事実があった。

十五年前、芦屋はある“贋作事件”に巻き込まれた。業界を揺るがすほどのスキャンダル。だが、その証拠は曖昧で、結局事件は闇に葬られた。

そして、今回招待された8人——その事件に何らかの形で関与していた者ばかりだった。

「つまり、芦屋は最後の晩餐会で“真犯人”をあぶり出そうとした」

絵の断片は、その事件の“告発状”だった。

瑠璃は思い返す。芦屋が彼女にかけた最後の言葉。

「あなたには、見る力がある。“絵”に隠された嘘を見抜ける目が——」

それは、彼自身が死後に託したメッセージでもあった。

だが、まだ絵は三枚残されている。真実は、最後の断片にこそ隠されているのだ。

そしてその夜——七曜邸に、予告状が届く。

「次は“あなた”の罪を描く」

送り主は誰か。瑠璃の名を指しているのか。それとも、最後の“赦し”が、彼女自身に向けられているのか。

そして、五つ目の密室が、静かにその扉を閉じる。

第五章:罪の継承

七曜邸の空は、夜の闇をさらに深く染めていた。冷たい風が窓を打ち、館の奥では五番目の密室が静かにその扉を閉ざしていた。

そしてその中で見つかったのは——黒崎理央。無口で沈黙を貫いていた芦屋の秘書。

彼女の死体の隣に置かれていた第五の絵の断片は、“白い手”の絵。その構図は、過去に芦屋が描いていた未発表作品と酷似していた。

「これは…未発表の贋作とされていた絵…?」

瑠璃は震える指でその絵を確認する。かつて芦屋が疑われた“贋作事件”の中心になったものと、まったく同じ構図。

「黒崎理央が秘書でありながら、芦屋の名義で偽作品を世に出していた可能性がある」

それはつまり——理央が“芦屋の罪”を背負っていた者だった。

そして絵に記された小さな文字。

「誰かが贋作を“本物にした”」

その言葉は、絵の価値の欺瞞をも示していた。

城ヶ崎瑠璃はふと、自分の過去に目を向ける。

彼女が警察を辞めた理由——それもまた、芦屋康晴の事件に関係していた。

十五年前、瑠璃は美術詐欺の捜査を担当していた。だが、証拠が不足し、芦屋を訴追できなかった。

その未解決の罪を、彼女はずっと胸の奥にしまっていた。

「そして芦屋は、それを見抜いて私を招いた…?」

六枚目の絵が見つかる。

それは、瑠璃自身を描いた肖像画だった。背景には文字が刻まれている。

「赦しは、罪を受け入れる者にのみ訪れる」

彼女は膝をつき、静かに目を閉じた。

真犯人は——絵を使って、“罪の継承”を行っていた。芦屋が背負っていた罪、それを他者がどう受け止めるかを試していた。

そして最後の絵の断片はまだ見つかっていない。

館の地下室——封印された“アトリエ”が開けられるとき、すべての真実が明らかになる。

静寂の中、最後の扉が軋んで開き始める。

第六章:アトリエの断罪

地下室の鍵は、芦屋康晴の書斎に隠されていた。絵の断片の裏、城ヶ崎瑠璃が発見した微細な“白い絵具の痕”を辿り、彼女はアトリエへの扉を開けた。

そこは、時間が止まっているかのような静寂と、キャンバスの匂いに包まれていた。壁に並べられた未完成の絵。机の上には、日記、スケッチブック、そして——第七の絵の断片。

その中央に描かれていたのは、窓から差す光に包まれた城ヶ崎瑠璃自身。彼女が手にしていたのは、芦屋康晴の絵。

まるで、この結末を彼はすべて予見していたかのように——。

スケッチブックには、未発表の一文が記されていた。

「罪とは、誰かが犯すものではない。——誰もが、知っていて黙っていたことだ」

芦屋は、自らの罪だけでなく、周囲の“沈黙の共犯”を描きたかったのだ。贋作事件も、亡き秘書の関与も、そして瑠璃の“見逃し”。

彼は絵によって、最後の審判を行っていた。

そして最後のページには、「真犯人」の名が書かれていた。

——外崎剛士。

彼はかつて芦屋の絵を盗作し、それを贋作として仕立て上げた張本人だった。芦屋は告発せず、それでも彼に絵の断片を渡していた——罠として。

「これで終わりよ、外崎さん」

城ヶ崎瑠璃は、残された断片をすべて揃え、元の絵に戻す。そしてその構図は——“罪の輪”。

犯した者、黙認した者、受け入れた者。そのすべてを含んだ円形の連作。

外崎はただ笑う。

「美しいな。康晴が死んでも、絵は語るのか」

警察がようやく到着する頃には、絵は元通りに展示され、七曜邸は美術館のような静けさに戻っていた。

そして最後に、城ヶ崎瑠璃は封筒を開く。芦屋からの手紙。

「ありがとう。絵を、罪を、伝えてくれて」

雪が止み、光が差し込む。真実は語られた。赦しとは、絵のように——じっと見つめる者にしか訪れないものだった。

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