2025/07/22

深い夜の帳が降りた森の奥。村の人々は「かげろうの森」と呼ぶそこに、決して踏み入れてはならないという暗黙の掟がある。理由を知る者は少ない。ただ語り継がれる伝説だけがひそやかに残っている。
ある雨の夜、若い狩人の嵐(あらし)は、鹿を追いかけてその森へ足を踏み入れてしまう。豪雨に流されるように進む彼の前に現れたのは、不気味なまでに美しく光る古びた屋敷。周囲の木々は呪われたようにねじ曲がり、狂気的な静寂が包んでいた。
嵐は雨を避けるため、屋敷に入るが、中は異様に整然としており、まるで彼を待っていたかのようだった。奥の間には奇妙な本が何冊も並び、何世紀も触れられていないような埃をかぶっている。それでも、棚の中央に目を引く1冊の本が。「村の裏側」と題されたそれを手にした瞬間、嵐は凍り付いた。
ページに記された文字は消えたり現れたりしながら、嵐の名前を呼ぶ。そしてその後ろに書かれた言葉、「お前の選択で村が決まる」。扉の向こうには笑い声がこだまし、影たちが踊るように迫ってくる――
嵐が足を引きずるように屋敷の奥へ進むと、影たちは彼の目の前で揺れ動き、その形を変えていく。突然、目の前に現れたのは、彼の故郷の村そのもの。しかし、それは変わり果てていた。家々は崩れ、道は消え、村人たちは影のようにぼんやりと存在しているだけだった。
嵐は恐怖と混乱の中で、古びた本を再び手に取る。「村を救いたければ、犠牲を捧げよ」と新たな文字が浮かび上がり、彼の選択が迫られた。影たちは彼を取り囲み、静かで恐ろしい笑い声が屋敷全体に響き渡る。彼は本を閉じようとしたが、本は手に張り付いて離れない。
扉が大きな音を立てて開くと、嵐の前に巨大な影の王が現れる。その存在は屋敷そのものを支配しているかのようで、深い声が嵐の心に直接響いた。
「決断を急げ。お前の時間はもう限られている。」
嵐は震える手で本を持ち、犠牲として差し出すものを選ばなくてはならなかった。彼が村を救うために捧げるべきものとは何か?答えは物語の中にしか存在しない。