2025/07/22

街の片隅にある小さなカフェ「ルージュ・ジャルダン」。店の裏手には、小さな家庭菜園が広がっている。そこには色鮮やかなトマトが揺れ、太陽の光を浴びて輝いていた。
このカフェで働く理央は、オーナーの手伝いをしながらトマトの世話をしていた。ある日、店を訪れた青年――奏多が、興味深そうに庭を眺めていた。
「このトマト、すごく立派ですね。」
理央は笑いながら答えた。「カフェのシンボルみたいなものです。ここの料理は、全部この畑のトマトを使ってるんですよ。」
奏多は驚きながら、そっと一つのトマトを手に取った。「へえ、そんなに大切なものなんですね。」
それから、奏多は頻繁にカフェを訪れるようになった。
***
理央は、奏多が来るたびに少しずつ彼に惹かれていくのを感じた。彼の話す言葉、笑い声、何気ないしぐさ――すべてが、トマトのようにゆっくりと熟していくようだった。
ある日、奏多が店の庭で理央を待っていた。
「トマトって、育てるのが難しいんですよね?」
理央はうなずいた。「そうですね。愛情を込めないと、美味しくならないんです。」
奏多は少し考えてから、そっと微笑んだ。「それって、人の心も同じかもしれないですね。」
理央は戸惑いながらも、その言葉の意味を噛みしめた。
***
季節が変わり、庭のトマトが最も美しく熟した頃。奏多は理央に一つのトマトを差し出した。
「このトマト、一緒に食べませんか?」
理央は驚きながら、それを受け取った。そして、奏多と並んでトマトを半分に割り、口に運ぶ。
瑞々しさとほんのりとした甘み。
奏多が言った。「これ、理央さんの愛情がたっぷり入ってる味ですね。」
理央の頬がわずかに染まった。
それは、トマトが結んだ小さな恋のはじまり。