2025/07/22
海の中にいるような静けさに包まれた水族館で、二人の恋がゆっくりと動き始める——。
**第一章：出会いの波**
都心の大きな水族館で働く菜月（なつき）は、生き物の世話をする飼育員として忙しい毎日を送っていた。彼女にとって、海の生き物は家族のような存在。しかし、人と関わるのは少し苦手だった。
ある日、彼女の働く水族館にひとりの青年が訪れる。蒼真（そうま）——水族館の設計を担当する建築士。新しい展示エリアの改装を手伝うためにやってきた彼は、仕事の合間に何気なく大きな水槽を眺めていた。
「このクラゲ、すごく綺麗だな」
それが、二人の最初の会話だった。
**第二章：静かな波紋**
改装の準備が進む中、菜月と蒼真は徐々にお互いのことを知っていく。菜月は魚たちに話しかけることが癖になっていて、蒼真はそんな彼女を面白がった。
「人より魚と話すほうが楽なの？」
「魚は何も期待しないから、気が楽なんだよ」
そんな彼女に、蒼真はそっと微笑む。「それなら俺も、何も期待しないから、気軽に話してくれたらいいのに。」
それから、彼は何かと菜月の近くにいるようになった。水槽越しに交わす視線、静かな夜の水族館で響くお互いの声。
**第三章：泡のような迷い**
水族館の改装が完了し、蒼真はもうすぐ別の仕事のためにこの町を離れることになった。菜月はその事実に気づきながらも、自分の気持ちをどう伝えたらいいのか分からなかった。
最後の夜、蒼真は菜月をイルカのいる大水槽前へ呼び出した。
「俺、この水族館が好きになった。もちろん、生き物たちもだけど——君も。」
水槽の向こうでは、イルカが静かに泳いでいた。まるで二人の気持ちを見守るかのように。
**最終章：青の誓い**
「もし、この水族館のどこかに俺の設計したものが残っているなら——それを見るたびに俺を思い出してほしい。」
蒼真はそう言い、菜月の手に小さなガラス細工のクラゲを渡した。それは、彼が特別に作ったものだった。
「また会える？」
菜月の問いに、蒼真は穏やかに頷いた。「海は広くても、結局、波は必ず戻ってくるから。」
そして彼は去り、菜月は水族館に残った。しかし、いつか再び訪れる波のように、二人の心は繋がったままだった——。
