2025/07/22

病院の窓から見える空は、どこまでも澄んでいた。
「今日も晴れてるね」
私はベッドの上で微笑みながら、彼に話しかけた。
「そうだね。でも、君はまだ外に出られないんだろ?」
彼――悠斗は、少し寂しそうに笑った。
「うん。でも、こうして話せるだけで十分だよ」
私は病室の白いカーテンを見つめながら言った。
悠斗とは、偶然の出会いだった。
ある日、病院の庭で本を読んでいた私に、彼が声をかけた。
「その本、面白い?」
「うん。ちょっと切ないけど、素敵な話」
「へえ、どんな話?」
それが始まりだった。
彼は毎日のように病室に来てくれた。私が外に出られない日も、窓の外から手を振ってくれた。
「退院したら、一緒に海を見に行こう」
彼はそう言って、私の手を握った。
「約束だよ」
私はその言葉を信じた。
しかし――
ある日、彼は病室に来なかった。
次の日も、その次の日も。
「悠斗くんは……?」
看護師さんに尋ねると、彼女は少し悲しそうな顔をした。
「……彼も入院していたのよ。でも、もう……」
その言葉の意味を、私はすぐには理解できなかった。
悠斗は、もうこの病院にはいない。
私は窓の外を見つめた。
そこには、彼がいつも立っていた場所があった。
そして、そこには――
白い花が、一輪だけ咲いていた。
まるで、彼が最後に残した約束のように。