2025/07/22

京都の町家の一角に、小さな喫茶店「宵月堂」がある。古い木造の扉を開けると、少しだけ時間が逆戻りしたような空間が広がっている。そこでアルバイトをする大学生・紬(つむぎ)は、静かな日常を大切に生きていた。
ある雨の午後、ひとりの青年が店にやってくる。濡れたシャツに、優しげなまなざし。名前は蓮(れん)。東京から京都へ、ある理由でやってきたという。
蓮は紬に尋ねる。「ここ、ずっと変わらずにあるんですね。」
その言葉に心が少し引っかかる。――どうして彼は、この喫茶店のことを知っているのだろう?
二人は少しずつ言葉を交わし、お互いの心の奥に触れていく。蓮の言葉には、どこか懐かしさがあった。そしてある日、彼が口にした。
「僕、10年前にこの店で、女の子と約束をしたんです。“またここで会おう”って。」