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短編小説、ゲーム攻略

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【風のいない午後に、君の名前を呼ぶ】短編小説

time 2025/06/21

【風のいない午後に、君の名前を呼ぶ】短編小説

四月の風が、まだ少し肌寒く吹いていた。
教室の窓の外には桜が舞い、けれどその美しさは、彼女の部屋には届かない。

静かになった三人の関係に、時間だけが流れ始める。

ある町の中学校に、仲のよい三人組がいた。蒼空(そうく)、湊(みなと)、そして栞(しおり)。
蒼空は明るくて正義感が強く、いつもみんなの中心だった。湊は物静かで、けれど誰よりも優しく周りを見ていた。そして、栞は二人の間で揺れながらも、どこか無邪気な笑顔を見せていた。

「好きってなんだろうね?」
ある日、栞が聞いた。
「守りたい、って思うことかな」と蒼空は答え、湊は「ただ隣にいてほしいって思うこと」と小さく呟いた。

春が来る前、蒼空は交通事故で帰らぬ人となった。
その日から、栞は学校にも来ず、部屋に閉じこもったまま。窓のカーテンすら閉ざして。

湊は彼女の家の前で毎日立った。最初は何も言わず、ただそこにいた。
やがて紙飛行機に手紙を載せて投げるようになった。

「あの日の桜は、今年も咲いたよ。」
「蒼空が好きだった歌、覚えてる?」
「君の声を、もう一度聞きたいと思ってる。」

季節は梅雨へ。ある日、窓が少しだけ開いていた。そこから、折り鶴が返ってきた。
返事だった。

ゆっくりと、栞は少しずつ外に出るようになる。
湊は変わらず隣にいた。思い出の場所に行ったとき、栞が言った。

「私ね、蒼空のこと、好きだった。でも…湊と話すと、なんか…あったかいの」
湊は少し笑って答えた。
「君の笑顔が見たくて、毎日立ってたんだ。誰かを想うのに、理由なんてなくていいよ」

夏の終わり、栞が初めて声を出して笑った。空に浮かぶ雲は、どこか懐かしかった。

蒼空はいないけれど、その思いは二人の中に息づいている。
悲しみの中に差し込んだ光は、誰かを支える強さに変わっていった。

必要とされるのではなく、ただそばにいたいと思うこと。
それが愛なのかもしれない。

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