【金平糖の恋】短編小説

夜の京都。静かな町の片隅に佇む小さな和菓子屋「日々飴堂」。その店の一角に並ぶ金平糖は、ただの砂糖菓子ではない。いつからか、「この金平糖には想いが宿る」という噂が囁かれていた。

店主の孫である優人は、祖父の手伝いをしながら金平糖を作り続けていた。彼はこの店の金平糖に込められた“想い”について、幼い頃から興味を持っていた。祖父はいつも「作る人の心が映るのさ」と笑っていたが、それ以上のことは語らなかった。

そんなある日、店を訪れた一人の女性――千紘。彼女は金平糖を手に取り、じっと見つめた。「この金平糖、どこかで食べたことがある気がする…。」

その言葉に、優人の心がかすかに震えた。

「そう感じるのは、この味があなたの記憶の中にあるからかもしれません。」

千紘は微笑んだ。「昔、大切な人がいつも金平糖をくれたの。でも、今ではもう会えなくて…。」

彼女の言葉は、優人の心に甘く切ない余韻を残した。彼は思わず尋ねた。「その人ともう一度会いたいですか？」

千紘は迷うように視線を落とし、それからゆっくりと頷いた。

「もし金平糖が記憶を辿る鍵になるなら…。」

それを聞いた優人は、ふと祖父の言葉を思い出した。「作る人の心が映る」。ならば、千紘の“想い”を込めた金平糖を作れば、彼女の過去と繋がることができるのではないか――。

翌日から、優人は特別な金平糖作りに没頭した。いつも以上に慎重に、心を込めて、小さな粒ひとつひとつを丁寧に作り上げた。そして数日後、完成した金平糖を千紘に手渡した。

「これがあなたの想いを映した金平糖です。」

千紘はそっと口に運び、ゆっくりと噛んだ。その瞬間、彼女の瞳が揺れる。

「この味…間違いない…。」

千紘はふと涙をこぼした。「あの人がいつもくれた金平糖と同じ味…。」

その日から、千紘の足は幾度となく「日々飴堂」を訪れた。そして、彼女が金平糖の魔法によって導かれるように過去の想いを辿るうちに、優人と千紘の心も徐々に重なっていく――。

それは、金平糖が紡いだ甘くて切ない恋の物語。