【秘密のルームシェア】短編小説

春の訪れとともに、奈央は新しい生活を始めることになった。両親の海外赴任によって、一人暮らしをすることになったのだ。しかし、新居に足を踏み入れた彼女の前に、思わぬ出来事が待ち受けていた。

「……君、誰？」
ドアを開けた先にいたのは、見知らぬ少年――悠真だった。どうやら、手違いで同じ部屋が二重契約されていたらしい。お互い譲る気はなく、奈央も悠真も、その部屋で暮らすしか選択肢はなかった。

「じゃあ、もうこうなったら……バレないように同居するしかないね」
かくして、秘密のルームシェアが始まった。学校でも家でも、絶対にバレてはいけない。ドアのノック一つで息を潜め、生活のルールを決めて慎重に過ごした。しかし、不思議なことに、同居が続くにつれ、奈央は悠真との時間を心地よく感じるようになっていた。

「なんか、こういうのって……まるでドラマみたいじゃない？」
「まあ、俺たちはその主人公みたいなもんだしな」
そうして過ごすうちに、二人の距離は徐々に縮まっていった。奈央は悠真の頼れる一面を知り、悠真は奈央の優しさに触れた。やがて、恋愛へと発展し、奈央は自分の気持ちを隠すことなく悠真に伝えた。

しかし、そんな平穏な日々は長くは続かなかった。ある日、奈央の両親が突然帰国し、部屋を訪ねてきたのだ。全てが白日の下にさらされ、奈央と悠真の関係は問い詰められることになった。

「どうして、こんなことを……？」
「でも、お互い支え合って暮らしてきたんだ」
「そういう問題じゃない！」

親に隠していたことへの罪悪感と、悠真への想いの間で奈央は揺れた。全てを失ってしまうかもしれない。それでも、この気持ちは偽りではない――そう思いながら、奈央は覚悟を決めて口を開いた。

「私、彼と一緒にいたい」

奈央は強く言い切ったものの、両親はすぐには納得しなかった。予想通り、激しい言い争いになり、悠真も奈央を庇いながら懸命に説明した。

「僕は奈央を守りたいんです。勝手に同居したことは謝ります。でも、奈央は一人で頑張ってきたんです。僕も支えられていました」

両親は困惑した表情を浮かべながらも、二人の真剣な態度に少しずつ考えを変え始めた。

「……本当に、奈央のことを大切に思っているの？」
「はい。奈央の未来にとって良い影響を与えたいと思っています」

数日間、緊張した空気が続いたが、両親は結局、奈央の気持ちを尊重することにした。ただし、条件付きだった。

「まずは学業に専念すること。そして、親として納得できる形で生活すること。それができるなら……考えてもいいわ」

奈央と悠真は顔を見合わせ、ほっと息をついた。まだ試練は続くが、少なくとも二人は離れ離れにならずに済んだのだ。

そして、両親の信頼を得るために、二人は改めて生活を整え、真剣に未来について話し合うようになった。同居という形は変わるかもしれないが、奈央は悠真との関係を大事にしたいと強く思っていた。

「これからどうする？」
「まずは、ちゃんとした形を整えよう。それに……お互いにもっと強くなりたいよね」

秘密のルームシェアは終わりを迎えつつあった。しかし、二人の物語は、ここからが本当の始まりだった――。