2025/07/22

**第一章 祭りの始まり**
夕暮れの空が橙色に染まり、蝉の声が遠くで響いている。
和也(かずや)は神社へ続く参道を歩きながら、賑やかな夏祭りの空気に包まれていた。
「今年も来たな、夏祭り」
屋台の灯りが揺れ、人々の笑い声が響く。金魚すくい、綿菓子、ヨーヨー釣り——どこを見ても懐かしい光景が広がっている。
ふと目を向けると、浴衣姿の千夏(ちなつ)が、射的の景品を見つめていた。
「狙ってるの?」
驚いたように振り向いた千夏は、ふっと笑う。
「うん。でも当たらなくて」
「見せて。こうやって……」
和也が狙いを定め、静かに引き金を引くと、景品の小さなぬいぐるみが落ちた。
千夏は目を丸くして、それを受け取る。
「すごい……ありがとう」
その瞬間、遠くで打ち上げ花火が上がった。
光の中、千夏の横顔がふわりと浮かび上がる。
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**第二章 ホタルの導き**
祭りの喧騒を抜け、二人は神社の裏手にある静かな川辺に足を運んだ。
「こんな場所、初めて来たかも」
「ここ、ホタルが飛ぶんだよ」
和也の言葉に、千夏は少し驚いたように目を瞬かせる。
すると、一匹のホタルがふわりと舞い上がり、静かに光を灯した。
「……本当にいるんだ」
その声に呼応するように、次々とホタルが飛び交う。
夏の闇に揺れる、小さな光の群れ。
和也は千夏の隣で、そっと呼吸を整える。
「こういう場所で話すと、いつもと違う気分になるな」
「……うん、なんだか静かで落ち着く」
二人は並んで座りながら、ホタルの光をじっと眺めていた。
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**第三章 揺れる想い**
それから数日後、和也はふと考えていた。
千夏と一緒にいた時間。
ホタルの光の中、ふと見つめた彼女の笑顔。
「……俺、千夏のことが好きなのかもしれない」
でも、この気持ちを伝えていいのだろうか。
祭りが終わると、いつもの日常が戻ってくる。
ただの夏の思い出として、過ぎ去ってしまうのか——それとも。
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**第四章 告白の夜**
再び訪れた川辺。
この場所には、あの日の記憶が静かに残っていた。
千夏がゆっくりと川面を見つめながら、ぽつりと話す。
「今年の夏祭り、なんだか特別だったな」
「俺も、そう思ってた」
風が静かに吹き抜ける。
和也は迷いながらも、口を開いた。
「俺……千夏のことが好きだ」
千夏は驚いたように目を丸くし、次第に優しく微笑んだ。
「……私も、和也のことが特別な存在だって思ってたよ」
ホタルがふわりと舞い、二人の間に光を灯す。
それは、夏の終わりが、新しい始まりへと変わる瞬間だった——。